相対しているときは冷静だったけれど、それは家に帰ってくるまでであった。

 ショックは遅れてやってきて、果歩はだいぶ荒れてしまった。

 お酒は弱いから、酒浸りになることはなかった。

 煙草も吸わないから、喫煙量が増えるなんてこともなかった。

 でも代わりに甘いものを次々と食べてしまって、たった数週間で体重は数キロ増えた。

 なかなか眠れなくもなった。

 明け方まで寝付けないのもざらで、果歩は心も体もどんどん弱っていった。

 それを見かねた上司が「社内医務室に行ってこい」と半ば無理やり社内のお医者さんを紹介してくれて、果歩は心理療法士というひとに、全部話した。

 泣きながら、ぶちまけるようになった果歩の話を、三十代くらいの彼女は最後まで聞いてくれて、アドバイスをくれた。

「気分転換をしたほうが良いかもしれませんね。なにか好きなことを思い切りするとか、行ってみたかった場所に行くのも良いです」

 びしょびしょになったハンカチを握りしめた果歩は、そのとき思いついた。

 好きなことを思い切り。

 行ってみたかった場所。

 両方が叶えられるところがすぐに思い浮かんだのだ。

 そこは海が美しい場所、ハワイ。

 学生時代に一度だけ行って、とても楽しい時間を過ごしたのを思い出した。