「熱はないんです。お腹も平気で……」

 曖昧な説明をした果歩に、三枝は『よくわからない』という顔ながら、心配そうな様子は崩さなかった。

「そう……、季節の変わり目だからかな。心配ね、今日はもう上がる?」

 提案されたけれど、それも申し訳ない。

 明らかに熱があるとか、お腹を下しているとか、そうであればお言葉に甘えただろうけれど、そういうわけではないのだ。

「すみません、でもあと数時間ですから……」

 だから笑ってみせて、辞退しようとしたのだけど、その様子がむしろ心配されてしまったようだ。

「無理をしちゃダメよ。やっぱり帰りなさいな」

 そう言われて、その場で早退届にサインまでされてしまう。

 果歩はお言葉に甘えるしかなくなった。

 そのまま席に戻り、荷物をまとめ、ロッカールームに向かう。

 ほんとになんなんだろう。

 月経前症候群ってやつかな、でもそれにしては……。

 さっき思い浮かんだことをなんとなく思い返していたけれど、そこで、はたとした。

 はっきり『生理前』と自覚できるような感覚。

 感じるのは久しぶりではないか。