そのまま小声でやり取りをしていたけれど、そのうち翔が、すっと果歩の体を離した。

 一歩踏み出した翔の意図を悟って、果歩も振り返る。

 それで向き合うような形になった。

「果歩。……」

 翔の手が伸ばされる。

 果歩の頬に触れた。

 大きな手が包み込んでくる。

 果歩は目を細めていた。

 その様子だけで、気持ちは伝わっただろう。

 すっと目を閉じた、その次には、顔を寄せられていた。

 あたたかな感覚が目の前までやってきて、くちびるにやわらかなものが触れる。

 触れるだけの、ソフトなキス。

 でも果歩は全身が発火したかと思うほど熱くなるのを感じてしまった。

 かぁっと熱くなって、頭の先まで震えるような感覚も起こる。

 翔のくちびるは触れて、離れて、また触れて……、ゆっくり果歩とひとつに合わせていく。

 果歩は翔の胸元を握って、それに応えた。

 こんな幸せな、慈しむようなキスは初めてだ、と思う。

 胸がいっぱいになるようだった。

 やがて、そっと翔が顔を引いた。

 間近で果歩を見つめる。

 やわらかな色をした、優し気な瞳。

 果歩はうっとりと見つめ返した。