抱きしめられるなんて初めてだけど、すぐに理解した。

 ずっとこうしてほしかったのだ。

 こうして、特別な意味で、触れてほしかったのだ。

「……翔さん」

 果歩が呟く声は、感嘆になった。

 うっとりした響きになっただろう。

「果歩」

 翔も小さな声で、囁くように、果歩の耳元で名前を呼んでくる。

 薄明かりの部屋の中で、海の見える大きな窓の前で、しっかり抱きしめられている。

 非日常と、それからずっと望んでいたことが叶った高揚と、両方から心臓がもっとどきどき高鳴ってくる。

「ずっとこうして触れたかったんだ」

 翔が耳元で言う。

 果歩の胸を震わせるような言葉と声だった。

「……嬉しい」

 素直な気持ちが口をついた。

 お互いにこう思っていたことが、とても嬉しくて、幸せだと思う。

「泊まってくれて、本当にありがとう。日本に帰ってからの仕事が大変になってしまうと思うのに」

 向こうもとても幸せそうな声で、でもちょっと申し訳なさそうに言われる。

 気づかってくれるのが、また優しいのだった。

 果歩をふわっと笑顔にさせてくる。

「ううん……大丈夫だよ」

 小さく答えた。