「俺は仕事以外の数学がさっぱりなんだよ。学生時代はそりゃあ勉強したけど、今はもう本当にダメだ。だから余計尊敬してしまうな」

 茶化すように言った翔。

 果歩もつられて笑顔になった。

 素敵なディナーの中で、果歩は一杯と思っていたのに、あまり飲みやすかったので、つい二杯目も頼んでいた。

 自分が酔っている、と自覚する。

 でも悪い酔い方ではないとわかった。

 気分が悪いなんてもってのほか、ふわふわするような、心地良い感覚だけがある。

 やがて素敵な料理でお腹もいっぱいになって、最後にマンゴーのシャーベットが出てきた。

 こっくり甘い味ながら、氷菓なので、さっぱりした口当たりだ。

 紅茶と共に味わいながら、このあとのことになる。

 下に部屋を取ってくれているのだという。

 果歩はちょっと恥ずかしくなったけれど、そうだとわかっていて来たのだ。

「荷物は服もキャリーケースも、全部、運び込んでもらってあるからね」

 そうも言ってくれて、本当に気が回るひとなのだと、果歩は改めて感動してしまった。