「た、ただの事務だよ。経理事務……」

 なので言葉は濁った。

 誤魔化したいのではなく、堂々とできるような立派な仕事ではないから、話すのが恥ずかしいのだ。

 翔は不思議そうになった。よくわからない、という顔をする。

「そうなんだ。立派じゃないか」

 しかもそう言うので、果歩はびっくりした。

 立派!?

 誰でもできるような事務職が!?

 果歩が目を丸くしたのを見てか、翔はますます不思議そうになる。

「経理って、計算だろう。しかも会社や経営、税金の経理なんて、とても大変って聞くよ。そういう緻密(ちみつ)な作業をできるなんて、とてもすごいじゃないか」

 そう言われて、果歩はもっと目を見張ってしまう。

 自分がいつも何気なくしている、平凡でしかない仕事。

 そんなふうに言ってもらって、褒められたことなんて、ほとんどない。

 なんて優しいひとなんだろう。

 それに仕事というものを、なんであっても大切なものだと捉えているんだ。

 果歩は嬉しさと感動、尊敬を同時に覚えた。

「あ、……ありがとう。そんなふうに言ってもらえるなんて」

 果歩の気が引ける気持ちは、すぅっと消えていった。

 自分はもっと自信を持って良かったのかもしれない。

 そんなふうにも思えてくる。

 それで、きっとその通りなのだろう。

 仕事に貴賤(きせん)はない。

 果歩はこのとき、はっきり知った。