果歩はごくっと喉を鳴らしていた。

 胸の鼓動はもう、速くなりっぱなしだ。

 でもわかっていた。

 自分の気持ちに素直になるときだ。

 ここまでたくさん優しくしてもらって、濁すように終わるなんて、したくない。

「……わかった。じゃあ……明日まで」

 翔を見つめ返し、言った。

 くちびるが震えそうになったのは、大胆なことをしてしまった、という事実にである。

 翔の誘いに応えたことを後悔したからではない。

 後悔と言うのなら、あとから、そう、数日後に独り切りになってしまってから、果歩は別のことに悔やむことになるのだが。

 それは自分が言ったこと。

 本当は、こう言うべきではなかったのではないか。

 自分の気持ちは、もっとはっきり言うべきだったかもしれない、と。

 すなわち。

『あなたに惹かれているから、一緒に過ごしたい』

 そう伝えておけばなにかが変わっていたかもしれない、ということだ。