「では、ありがとうございました。また来ますね」

 最後に翔がなにかの紙袋を受け取っていて、それだけ言った。

 すでに果歩の荷物などが入った紙袋を肩からかけていたのに、これはなんだろう、と果歩は不思議に思った。

 そのあとお会計のことを考えてきょろきょろしてしまったが、多分、果歩が着替えやヘアセットをされているときにもう払われてしまったのだろう。そういう雰囲気だ。

「ええ。お待ちしております、逢見様」

 店員の彼女は丁寧にお辞儀をし、果歩も慌てて「お世話になりました」とぺこっと頭を下げた。

「では行こう」

 翔が再び手を差し出してきて、果歩はそっと手を伸ばして、上に重ねた。

「は、はい。……あれ」

 今度はさっきよりスムーズに応えられた、と思った果歩だったが、ドアを出て、目をぱちくりさせてしまった。

 そこには黒塗りの車が停まっていた。

 誰か別のお客さん?

 そう思った果歩だったが、ドアの前にいたスーツの男性に、翔が声をかけた。

「逢見です」

 さらりと名乗った翔。

 スーツの男性は慇懃にお辞儀をした。

「逢見様。お待ちしておりました。こちらへどうぞ」

 すっとドアが開いた。

 どうやら運転手か誰か、中から自動で開けたらしい。

 だが、どう見ても、自分たちに乗るように促している状況だ。

「え、えっ!?」

 果歩は目を白黒させて翔を見上げてしまったのだけど、翔はやはり、にこっと笑う。

「そのヒールで歩くのは大変だろう? ここからはこの車で移動するよ」

 え、えー……!?

 気遣われたのはわかった。

 だが理解は追いつかない。

 果歩はもう、頭の中で変な声を出すしかなかったのに。

 気付いたときには車のふかふかなシートに座らされて、車は街中へ向かって発進していたのだった。