果歩は立ち尽くした。

 昨夜……ごめん……。

 帰り……手配……。

 意味がすぐに呑み込めなかった。

 頭の中に、単語だけがぐるぐる回る。

 震える手を伸ばした。

 メモを取り上げる。

 封筒も取り上げた。

 見たくないと思ったけれど、確かめないといけない。

 おそるおそる、開いた封筒には予想通り、何枚か紙幣が入っていた。

 帰りの旅費を払っても、何枚も残るほどの枚数だ。

 でも果歩は喜ぶどころか、胸が押しつぶされそうな痛みを感じてしまった。

 ……どうして?

 どうして謝るの?

 それにお金なんて、こんなにたくさん残していくの?

 私は私の意思で、ここに残って、一夜過ごしたのに、これじゃ、まるで……。

 途切れ途切れの思考だけが、少しずつ頭に浮かんでくる。

 ずきっと胸がはっきり痛んだ。

 ぐぐっと喉奥に熱いものが込み上げてくる。

 甘い一夜と思ったのは自分だけかもしれない。

 ただのワンナイト。

 それだけだったのかもしれない。

 今、このメモと封筒がそれを表しているではないか。

 込み上げたものは、ぽろっと零れた。

 ぽたっと封筒にひとつぶ落ちてしまう。

 ……どうして?

 もう一度思ったけれど、この疑問や問いかけに応えてくれるひとは、ここには一人もいないのだった。