「oh! イイノニ」

 サムは驚いたようだった。

 海外ではサービスを受けるたびにチップを払うものだが、さっき翔がお会計に含めて渡しただろうから、果歩からもらえるとは思っていなかったのだろう。

「いえ、もらってください」

 果歩はもうひとつ、差し出す。

 サムは数秒だけためらってから受け取ってくれた。大切そうに持つ。

「Thank you!」

 笑顔で言われて、果歩も笑顔になった。

「行こうか?」

 向かいで見ていただろう翔は、このやりとりをどう思ったのか。

 優しい声音で促してきた。

 それで席を立ち、出口へ向かおうと思ったけれど、そこで翔が声を上げた。

「果歩さん! ジュース、かかってしまってるじゃないか!」

「え?」

 言われて、そこで初めて果歩は下を見下ろした。

 確かにスカート、お気に入りの緑色のスカートに濡れた痕があった。

 どうやらテーブルから零れたものが、スカートの上に落ちてしまっていたようだ。

「……ああ……、大丈夫。そんなに目立たないと思うし」

 でも自分がしてしまったことだ。

 果歩は怒るどころかそう言って、笑ってみせた。

「sorry……!」

 サムが慌てて謝ろうとしたけれど、制したのは翔だった。

「もう終わったことだよ。果歩さん、良かったらなんだけど」

 サムが言葉を切る。

 続きの言葉は、果歩に向かって言われた。

 にこっと笑って提案されたことに、果歩は目を真ん丸にしてしまった。

「素敵な時間をもらったお礼に、俺から新しい服を受け取ってくれ」