その通り、お昼少し前の時間に果歩は出発した。

 ランチは街中で食べる予定だった。まだランチには早めの時間だし、すぐにでなくてもいいかな、と思う。

 キャリーケースは空港で受け取れるように手配した。

 手荷物だけの身軽な格好になって、街中へ出る。

 海が見たいな、と思った。

 夕方にも夕焼けを見たいと思っていたけれど、明るい中で輝く海も見たい。

 それに、海辺は潮風がとても気持ちいいのだ。暑いというのに風は爽やかで、心地良く過ごすことができる。

 少し散歩でもしよう、と思った果歩は、海辺のほうへ向かう。

 そして数日前にも一度、散歩したあたりを歩きはじめた。

 泳げるビーチは観光客や、それを相手にしたお店やサービスでとても賑やかで、そういうところも行ったし、楽しんだけれど、もう帰るという日なのだから静かに過ごしたい気持ちだった。

 よって、敢えて泳げないエリアを選んで、きらきら輝く海を見ながら海沿いの道を歩いていたのだけど。

「……あっ!」

 するっと、不意に首元からなにかが抜けた。

 それはパステルピンクのストールだ。

 日よけも兼ねて、首に巻いていたお気に入り。

 落ちる、と思ったのだけど、海風がちょうど吹いてきたようで、ふわっと浮き上がってしまう。

 果歩が伸ばした手は空を切った。