「ハワイで手を繋いだときとは少し違うな」

 ゆっくり歩きながら、翔が感慨深げに言った。

 声を出した吐息が、ふわりと白く漂う。

 その言葉で果歩もあのときのことを思い出した。

 初めてハワイで手を繋いで歩いたとき。

 暑い場所だったのだから、手は軽く汗ばんでいただろう。

 でもそれを指しているのではないだろうな、とすぐにわかった。

「そう、だね」

 気恥ずかしくなったけれど頷いた。

 果歩に通じたとわかってくれたのだろう。

 翔は少し懐かしさも含んでいる、でもそれ以上に、愛おしそうな声で続けた。

「今はいっときのことじゃないってはっきり思えるし、それにもっと果歩を近くに感じる」

 言われてもっとくすぐったくなった。

 でも嬉しい。

 そんなふうに言ってくれることも、自分を大切にしてくれていることも。

「……私もだよ。ありがとう」

 やがて柵が張ってある道に差し掛かった。

 眼下には美しい夜の景色が広がっている。

 果歩は翔にちょっと視線を向けて、翔もにこっと笑いかけてくれた。

 それで柵へ近付いて、二人で下を見下ろした。