だが航のほうは違った。

 翔に招かれ、家に入ってリビングに入れられるなり、ものすごく広い場所と大きな窓、そこから見える、高い場所からの景色にすぐ興奮してしまったくらいだ。

 窓の前に翔が連れていくと、窓に手をついて、外をじーっと見つめていた。

 その目はきらきらしていて、とても嬉しそうで……。

「ぱーぱ! たかい! たかぁい!」

 うしろから翔に肩を抱かれて、航は興奮したように何度も繰り返した。

 しゃがんで航を軽く抱いた翔は、本当に愛おしそうに「そうだな」と笑い返していた。

 翔のプロポーズから約二ヵ月。

 すっかり寒くなった、冬のはじまり。

 翔と航は、改めて本当の意味で顔合わせをした。

 果歩が「パパだよ」と紹介すると、はじめはよくわからないという顔をしていた。

 二歳、三歳くらいになって、ほかの子どもとの交流が増えたり、幼稚園に通うようになっていたりしていたら『自分には父親という存在がいない』と認識して、不思議や不満に思っていたかもしれないが、それを感じるには少し早い。

 だからまだ赤ちゃんから脱しきらないうちに『パパ』ができたのは、ある意味良いことだったのかもしれない。

 とにかく、翔が丁寧に「よろしくな、航」と名前を呼んで、果歩の教示で初めて抱っこしたとき。

 航はほとんど警戒や恐れの様子は見せなかった。

 戸惑ってはいたものの、それ以来、何度か翔と接するうちに、腑に落ちたようだった。

 元々、あまり人見知りや物怖じをしない性格なのだ。

 数回目には自分から「ぱーぱ!」と呼んできて、翔はそのとき、目を潤ませていたものだ。

 とにかくそのように、本当に親子になり、認知と入籍も済ませた。

 名実共に、家族になったのである。

 結婚式はまだであるが、身辺や関係が少し落ち着いた頃には挙げたいという話になっている。

 それで今日が引っ越し。

 果歩と航の荷物を運びこんで、この家で暮らしていく初日である。