「……良かったわね」

 果歩の肩に、そっと優しい感触が触れた。

 それは母の手。

 いきなりこんなシーンに遭遇して驚いても仕方がないだろうに、とても落ち着いた、やわらかく、優しい声だった。

「……っ、うん!」

 果歩はぽろぽろ涙を零しながら頷く。

「まーま! おはな! きれー!」

 きゃっきゃと航がはしゃぐ声がする。

 これほどたくさんの花を、これほど近くで見たことはないから、嬉しくなったようだ。

 それに、この場の素敵な空気も感じ取っているのだろう。

 その声もまるで祝福してくれるよう……いや、きっとその通りなのだ。

「うん、綺麗だね」

 胸をいっぱいにしながら果歩は涙を拭って、航のほうを見た。

 翔が一歩、こちらへ踏み出した。

 花束越しに、果歩をやわらかく腕で包み込む。

 片腕は、航の肩にも回った。

「ありがとう。今度こそ、もう離さないから」

 抱いてくれる優しくてあたたかな腕、そして誓いの言葉。

 もう離れることなんてない。

 だってすれ違っていたものはすべてなくなったのだから。

 これからは三人でずっと一緒だ。

 誓いの薔薇から香る甘い芳香が、三人を優しく包み込んでいた。