吐き出すように言った言葉だった。

 だが、それに返ってきたのは落ち着いた声だった。

 少なくとも、ここまでのやり取りと比較したら、ずっと静かな声。

「果歩」

 翔が果歩を覗き込むように、テーブルの向こうからであったが視線を向けた。

 まるで包み込んでくれるような、優しい表情。

「そんなふうに言わないでくれ。……互いに剥離があったんだ」

 どちらだけが悪いという話ではない。

 すれ違いだ。

 お互いの気持ちが、まだあのときははっきりわかっていなかった。

 だからこそ起こってしまったことだ。

 それにもう過去のことでもある。

 今、どちらが悪かったなんて言い合っても仕方がない。

 果歩は浮かびそうになった涙を飲み込み、ぐっと胸元を握り直して、なんとか気を取り直そうと頷いた。

「だから合わせる顔がないと思って……あんなことをしてしまった。それが理由のすべてだ。でも、翌朝勝手にあんなことをしたのは、確実に俺が悪い。本当にすまない」

 翔の言葉は優しかった。

 何度目かもわからない謝罪を言われて、頭も下げられる。

 でも果歩は元々、責める気持ちなんてなかったのだし、すべてを知った今では、さらに強くそう思った。