「は、はい! すみません、このようなところで……」

 果歩が日本語に戻って続けたからか、彼は笑みになったようだった。もう一歩、近付いてくる。

「お荷物になにかありましたか?」

 そう聞いてくれながら、彼はすっとしゃがみこんだ。

 果歩がしゃがみこんでいるすぐ隣に。

 そのことで顔の距離が近付いて、果歩はまたしても違う意味でどきっとした。

 彼は明らかに日本人であるほかにも、たいそう整った顔をしていた。

 いわゆるイケメンである。

 きりりとした一重の目元。今は優しげな微笑が浮かんでいる。

 制帽をかぶっているから髪はよく見えないけれど、どうやら黒髪で普通の短さのようだ。

 鼻筋も通っていて、くちびるは薄めで形も良くて、果歩はつい視線を奪われてしまった。

 しかし数秒経って、またしてもハッとした。自分に恥じ入る。

 ひとの顔を、まじまじ見てしまった。失礼だっただろう。

 慌てて視線を逸らして、果歩はキャリーケースについて説明した。

「あ、は、はい……どうも、タイヤがはまり込んでしまったようで……」

 果歩が指差したところを見て、彼も理解したようだった。

「ああ……、このへんはたまにあるんです。ちょっと見せていただいて良いですか?」

 白いズボンだというのに、気にした様子もなく、彼は膝をついた。

 果歩は心から申し訳なくなってしまう。

 自分がドジをしてしまったというのに、荷物の様子を見るなんて、彼の仕事ではないだろうに、ここまでしてもらって。