「そう、だね。じゃあ……」

 だから果歩は頷いて、受け入れた。

 翔がほっとしたような顔になる。

 それでポケットに手に入れた。

「ああ。……これ、俺の連絡先が書いてある。遅すぎることだけど……」

 出てきて、果歩の前に差し出されたのは名刺だった。

 白い紙に、文字だけが印刷してある、シンプルなもの。

 でも言ったことは気が引けている、という内容だったので、果歩は軽く首を振って否定した。

「そんなことない。……ありがとう」

 手を伸ばして、名刺を受け取った。

 そうしてから、かたわらに置いていたバッグを引き寄せる。

 中からスマホを取り出した。

「でも、メッセのほうが早いし確実だと思うから……、交換してくれる?」

 スマホのメッセアプリを呼び出す。

 現代ならほとんどの者が使っているアプリなので、多分断られないと思ったが、その通り、翔はすぐ頷いて、再び違うポケットに手を入れた。

「ああ。もちろんだ。ちょっと待ってくれ」

 それで連絡先を交換した。

 電話番号も伝えて、登録し合った。

 そうしながら、果歩はなんとなく不思議な思いを感じていた。

 あのハワイで出会ったときは、連絡先の交換なんて頭にも思い浮かばなかった。

 それが今、こうして、自分の実家なんてところでスマホを突き合わせて交換している。

 ……現実なんだよね。

 そう噛み締めてしまったのだ。

 ある意味、夢のような時間だった場所とは違う。

 日本で、東京で、自分の暮らしている場所で……。

 こうして会って、これからを繋げようとしている。

 翔との時間は、ここで本当に現実のものになったのかもしれなかった。