果歩はどきっとする。

 英語なのは、ここはもう英語圏なのだから当然だ。

 ただ、その声があまりに優しい響きだったから。

 果歩はしゃがんだ体勢から、そちらを見上げた。

 そして今度は、違う意味でどきっとした。

 そこに立っていたのは、アタッシュケースを提げた男性。

 白地に黒い模様のアクセントが入った、かっちりした印象の制服に、同じデザインの制帽をかぶり、白い手袋をはめ、革靴を履いたスタイルの彼は、どう見ても操縦士……パイロットであった。

 きっと仕事の途中で通りかかったのだろう。

 そしてこんな変な様子でいたから、声をかけてくれたのかも……。

 そこまで考えて、果歩はハッとした。

 こんな、通路のすみとはいえしゃがみこむなんて、おまけにそこからキャリーケースの下を覗いているなんて、はしたない姿。

 急に顔が熱くなってくる。

「あっ、す、すみません! 大丈夫……あっ違! そ、sorry……」

 動揺のあまり、数時間前のように日本語で返答してしまい、またハッとした。

 英語で話しかけられたというのに、私ときたら。

 色々に情けなくなるやら、恥ずかしくなるやら。

 しかし、彼から次に出てきたのは英語ではなかった。

「もしかして日本人の方ですか?」

 日本語だった。

 しかも果歩が日本人だろうと見て取って、そう言ってくれたのだろう。

 果歩は違う意味でどきっとして、次にほっとするのを感じた。

 英語は少しだけ、街中の会話くらいできるけれど日本語で話せるなら、そのほうが的確。