影を使って声のもとに移動すると、小さな檻が目に入った。
魔物を捕らえておくためのもので、鉄格子がぐるりと囲い中の様子は簡単に確認できる。その中に捕らえられていたのは、母親譲りの美しいエメラルドの艶髪を揺らす、幼いフィオナだった。
膝を抱えてうずくまっている。
「フィオナ! 助けにきたわ」
顔を上げたフィオナはビクリと震えた。ヘーゼルの瞳はジッと私を見つめていたけど、やがてなにかを思い出したように口を開いた。
「あ……ママのお友達の魔女さん?」
「そう、セシルよ。覚えていてくれて嬉しいわ。今すぐ出してあげるわね」
「セシル様、この鉄格子はフェンリル用の頑丈な檻のようです。鍵を探さないと開けられません」
イリアスが悔しそうに進言してくれる。フェンリル程度の檻でなにを言っているのだ。怒れる魔女の力を舐めないでもらいたい。
「ふんっ、この程度、なんでもないわ」
雪の結晶の闇魔法を放って、檻の鉄格子を一瞬で切り刻んだ。ガランガランッと激しい音を立てて、細切れになった金属の棒が転がっていく。
「……なんて規格外な」
イリアスの独り言はスルーして、フィオナに手を伸ばした。檻の中にバケツが置かれていて、ずっと世話をされていないのか顔や洋服には埃や土がついたままだ。
「さあ、フィオナ。いらっしゃい、ママのところに帰りましょう」
「うんっ! 早くママに会いたい!」



