婚約者を奪われ追放された魔女は皇帝の溺愛演技に翻弄されてます!


 仮にも数年は婚約者だったのだ。本来の気質くらいはわかっている。
 これほどまでに価値があるなら、シャロンに乗り換える必要もなかったかもしれない。シャロンの価値は聖女であること、その一点に尽きる。

 見た目だって本当はセシルの方が好みだったのだ。
 艶やかな黒髪に控えめな印象の深緑の瞳。真っ白な柔肌は頬だけ薄紅色に色づいて、パッチリとした瞳で見上げてくる。仕草は洗練されて無駄がなく上品だった。

 だから父上も母上もセシルのことは気に入っていて、よく公爵家に招いていた。

 しかし隣で眠るこの女は、品のないピンクの髪にガサツな言動。取ってつけたような振る舞いは、傲慢に見えるだけだった。
 これでも公爵令息として最上級の教育を受けてきたから、所作や立ち振る舞いはいやでも目についてしまう。公爵夫人になることを考えると厳しい、と言い出したのは母上だ。

 もう少し見られるようになったら結婚を許すと父上に言われ、三年も経ってしまった。

「私は選択を間違えたのだろうか……」

 ポツリと呟いた声は、誰の耳に届くこともなく静寂に沈んでいく。

 でも、もう後戻りはできない。
 闇魔法の使い手として忌避されたていたセシルを、あの時点では妻にしたくなかった。


 私の選択はこれでよかったのだと思うしかなかった。