婚約者を奪われ追放された魔女は皇帝の溺愛演技に翻弄されてます!


     * * *

 帝都ジュピタルはこの大陸一の大都市だ。

 街は人であふれ、最先端の流行が発信され、なにもかもが充実している。もちろん美味しいものもたくさんあった。
 朝と言っても昼に近かったけれど、私が起きたら侍女たちにあっという間に出かける準備をされて、気がつけばレイと馬車に乗って街まで出ていた。そうしてやってきたのは、屋台が集まる街の広場だ。

「ほら、セシル。これが食べたかったんだろう?」
「うん! はああ、この屋台が残っててよかった……」

 私はレイが手渡してくれた、焼きたての串を受け取った。甘辛いタレがかけられた牛肉の串からは、食欲をそそる匂いが漂っている。

 この串焼きは、お兄様がよく私にお土産で買ってきてくれたものだった。最低限の食事しか与えられなかった私には、お兄様がお土産と言って買ってきてくれる串焼きがご馳走だった。

 ひと口頬張ってみれば、香ばしい匂いにブラックペッパーがピリッとアクセントになって、あふれた肉汁と甘辛いタレが口の中で運命の出会いを果たす。

「もう最高に美味しい! このタレとお肉なら毎日食べられるわ!」

 実際に薬屋で仕事をしていた時は、本当に毎日通い詰めていた。時にはフィオナに買ってきてもらうこともあった。

「そんなにこの屋台の肉が好きなのか」
「だって美味しすぎるんだもの。レイも食べてみて」

 私が促すと、レイもひと口頬張って目を見開く。