「帰ってきた時は平気だったのに……」
「セシルは、帝都の広場にある出店に目がないのです」
「うん? そうなのか?」
「ええ、侯爵家にいた頃、僕がお土産で買ってくる串焼きが好きで、いつも買ってきてました」
「串焼きか」
「はい、それが食べられなくて悲しいと、泣いておりました」
「……そうか」
泣くほど食べたかったのか。
それなら愛しい妻のために俺ができることはひとつだ。
「わかった、それならお忍びで街に出る。すぐに警備の準備をしてくれ」
「承知しました」
ユリウスは納得したようで、さっさとセシルの元へ向かった。
「どれだけ深刻な内容かと思ったら……串焼きですか……まあ、平和な証拠ですね」
イリアスが遠い目で何かを呟いていたが、よく聞こえなかった。



