婚約者を奪われ追放された魔女は皇帝の溺愛演技に翻弄されてます!


 セシルを泣かせる男だと?
 まさか、俺がセシルを泣かせたのか? ベッドの上でなく?

「セシルが泣いたのか……?」
「そうです。僕は今度こそセシルを守ると亡き母に誓いました。だから絶対に譲りません」
「ちょっと待て、なぜ泣いていた?」

 まったく心当たりがない。だってこんなにもセシルを愛して、優しく抱きしめて、大切にしているというのに。なにが原因で涙を流したというんだ?

「……陛下に愛されすぎて朝に起きれず、帝都の街の視察に行けなかったと涙しておりました」

 ——思い出した。

 一週間前のことだ。薬屋の様子を見たいというから、俺の視察についてくるかと聞いたのだ。
 だけど翌日の衣装を試着してもらった際に、ドレスとは違う可憐さに俺がやられてしまったのだ。

 翌朝、ぐっすりと眠るセシルを起こすのが忍びなくて、俺ひとりで視察に出かけたが、あの時泣いていたのか?