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この日の執務を終えて、俺はセシルの待つ寝室へと足速に向かった。毎日何時になるかわからない俺の帰りを、夫婦の寝室で待っていてくれる。
急いで寝室に入れば、セシルは皇后としての勉強をしていたと言ってふわりと微笑んだ。ほぼ必要のない勉強を切り上げて、俺と一緒にソファーに腰を下ろす。
「ねえ、レイ。ありがとう」
「なにがだ?」
「お兄様と話す機会を作ってくれて、ありがとう」
セシルとユリウスの対面はうまくいったようで、セシルに笑顔の花が咲いた。どこか寂しさを抱えていたセシルの影は、和らいだように思う。
「ああ、そんなことか。セシルのためならなんでもない」
俺がそう言うと、セシルが照れたようにはにかむ。そんな風に控えめに微笑む姿もかわいらしくてたまらない。
「でもね、お兄様ったら私に侯爵家の諜報部隊をつけていたのよ? 過保護すぎない?」
「そうだな……辞めさせたいか?」
「ううん、大丈夫。いざとなったら影移動で逃げるから。面倒に感じたら自分で言うわ」
「そうか」
なるほど、セシルが皇城に戻ってきてから、俺がこっそり影をつけているのは秘密にしておこう。



