婚約者を奪われ追放された魔女は皇帝の溺愛演技に翻弄されてます!


     * * *

 この日の執務を終えて、俺はセシルの待つ寝室へと足速に向かった。毎日何時になるかわからない俺の帰りを、夫婦の寝室で待っていてくれる。

 急いで寝室に入れば、セシルは皇后としての勉強をしていたと言ってふわりと微笑んだ。ほぼ必要のない勉強を切り上げて、俺と一緒にソファーに腰を下ろす。

「ねえ、レイ。ありがとう」
「なにがだ?」
「お兄様と話す機会を作ってくれて、ありがとう」

 セシルとユリウスの対面はうまくいったようで、セシルに笑顔の花が咲いた。どこか寂しさを抱えていたセシルの影は、和らいだように思う。

「ああ、そんなことか。セシルのためならなんでもない」

 俺がそう言うと、セシルが照れたようにはにかむ。そんな風に控えめに微笑む姿もかわいらしくてたまらない。

「でもね、お兄様ったら私に侯爵家の諜報部隊をつけていたのよ? 過保護すぎない?」
「そうだな……辞めさせたいか?」
「ううん、大丈夫。いざとなったら影移動で逃げるから。面倒に感じたら自分で言うわ」
「そうか」

 なるほど、セシルが皇城に戻ってきてから、俺がこっそり影をつけているのは秘密にしておこう。