今だから理解できることもある。あの時のお兄様は成人したばかりで、きっとできることなんて少なかったのだろう。
あの場でお父様の決定に逆らえば、シャロンが唯一の後継者として侯爵家を我がものにしていたのもわかる。エルベルトと結婚したとしても、子供に侯爵家を継がせることもできるのだ。
そうなってしまったら、私もお兄様も帰る場所はない。あのシャロンが私たちを受け入れることなんてないから、平民として生きていくことになっていた。
「僕の判断が間違っていた。あの時はそれが最良だと思っていたけど、魔女になったセシルを見て、そばにいてやればよかったと思ったんだ」
「遅すぎるのよ……気づくのが」
お兄様はそっと私の隣に腰を下ろす。涙声になってしまった私を抱きしめて、幼子をあやすように背中をポンポンとリズミカルに優しく叩いた。
「ごめん。セシルは僕の大切な妹だ。これからはそばにいて、守っていくから」
「今度、見捨てたら……呪ってやるから……!」
こぼれる涙はお兄様の肩を濡らしていく。そんなことは気にしてない様子で、お兄様の腕に力が込められた。
「大丈夫だよ、絶対に見捨てないから」
私はこの日、家族の愛を取り戻した。



