婚約者を奪われ追放された魔女は皇帝の溺愛演技に翻弄されてます!


「あの時、どうして僕が用意した金貨を持っていかなかったんだ?」
「私を見捨てた人から施しを受けたくなかったの」
「そうか……セシルからすれば、そう見えるよな」
「なによ、違うとでも言うの?」

 だってあの夜会会場では、目も合わせてくれなかったではないか。それなのに私を見捨てたわけじゃないと言うなら、なんだというのだ。

「僕は母上との約束があったから、あの時は動けなかったんだ。どんなに歯痒くて、どれだけ無力感に打ちひしがれても、耐えるしかなかった」
「お母様との約束? 初耳だわ」
「うん、母上が亡くなる一カ月前に約束したんだ。マックイーン侯爵家とセシルを守っていくって」
「そう、でも私のことは守ってくれなかったじゃない」
「それは僕の力不足だ。本当にごめん。あの時点で侯爵家から離れたら、シャロンの好き勝手にされてしまうから身動きが取れなかったんだ。父上にはもう期待できなかったし、僕が当主になったら、すぐにセシルを迎えにいくつもりでいた」

 そんなこと今頃言われても、どうにもならない。捨てられたと思って傷ついた心は、まだジクジクと痛んでいる。