婚約者を奪われ追放された魔女は皇帝の溺愛演技に翻弄されてます!


 本当に今さらだ。一番辛い時にそばにいてくれなかった。一番頼りたい時に見捨てられた。私にはもう家族なんていないと、割り切ったはずだったのに。

 それなのに、お兄様の優しい笑顔が浮かんでくる。怖い夢を見た時に、優しく頭を撫でてくれた手は温かった。後妻が来てからも、私が叱られないようにこっそりお菓子を分けてくれた。

「話くらいは聞いてあげるわ。でも気分が悪くなったら途中でも終わりにするから」
「セシル……チャンスをくれて、ありがとう」

 お兄様が泣きそうな顔で微笑むから、思わず視線をそらしてしまった。



 レイが別室を用意してくれたので、場所を移動してソファーに向かい合わせに座る。影移動のルートは復活させてあるから、ムカついたらいつでも移動できるから、いざとなったら姿を消せばいい。

「で、なにを話したいというの?」
「まずは、ごめん。セシルが一番つらい時に守ってやれなくて、本当にごめん」
「もう済んだことだから謝罪はいらないわ。他には?」

 謝ってもらっても私の心はピクリとも動かない。お兄様は傷ついたような顔をしたけど、固く拳を握っただけだった。