「俺は皇帝になる時に直系の一族は根絶やしにしたからな。養子を取ることもできない。だが無駄な争いを避けるためにも後継者は必要だ」
「それは、理解できるわ」

 周りを黙らせるためにも皇帝の血を引く後継者は必要不可欠だ。
 後継者ができないと言ってるけど、そもそも一族を根絶やしにしたからでは……と思ってしまう。でも悪魔皇帝の眼光が鋭すぎて、心内にそっと秘めておいた。

「それならお前が呪いの仮面の製造者として責任を取れ」

 そうなのだ、皇帝陛下のご尊顔についている呪いの仮面は、こともあろうか魔女である私が作ったものなのだ。しかも邪念を持つ者が触れたら痛みでのたうち回るという仕様にしてある。だから皇帝に触れることすら叶わなかったのだろう。

 むしろ自分のこんな数奇な運命を呪ってやりたいくらいだ。

「せ、責任って……まさか命をもって償えなんて言わないわよね?」

 恐る恐る聞いてみる。もし首を刎ねるとか牢屋に入れるとか、物騒なことを言われたら死の物狂いで逃げ出さないといけない。腕輪さえ外してしまえばどうにでもなる。……外せればだけど。


「違う。俺には後継者が必要だと言ったろう。だからお前が妻になって俺の子を産んでくれ」


「——はい?」

 すっかり逃げる算段を立てていたので、予想外の話に疑問で返した。目の前にいる悪魔皇帝はなんと言った?
 責任取って、妻になって子を産めと言った? 誰が? 誰の?

「よし、了承したな。イリアス、婚姻宣誓書の準備をしろ」
「承知しました。ではこちらに陛下のサインをお願いいたします」
「ああ」

 サラサラと迷いなくペンを走らせる悪魔皇帝が、ものの三秒ほどでサインを終える。イリアスと呼ばれた側近と思われる若い男が、悪魔皇帝から分厚い羊皮紙を受け取り爽やかな笑顔で目の前にやって来た。