婚約者を奪われ追放された魔女は皇帝の溺愛演技に翻弄されてます!


 私とフィオナが皇城で暮らすことになり、薬屋については皇城で作った薬を卸して販売することにした。
 店舗の販売員にはラウルとルーカスに任せようとしたのに、捨てられる子犬みたいな目で私を見つめるから、別の人に頼むことになった。

 笑いを堪えながら手を上げてくれたのはミリアムだ。

「いいのよ、皇城の堅苦しい生活は飽きてきたところだったの」

 そう言って、優しく微笑んでくれた。レイの計らいでノーマンの結界魔法をお店全体に張ってもらって、悪意のあるものが入ってこれないようにしてもらった。

 これで安心してミリアムにお店をお願いできる。フィオナには薬を卸す仕事を頼んだ。

 解呪の仕事は頻度を減らして、完全予約制で続けることにする。私の本職なのだから、辞めるつもりはない。
 それからラウルは私の専属護衛に、ルーカスは専属の執事にしてもらって皇城の生活を再開した。



 それからひと月経った頃、レイから執務室に呼び出された。

「今日はどうしたの? レイが執務室に呼び出すなんて珍しいわね」
「ああ、会ってほしい人がいる」
「会ってほしい人って誰?」

 そこでレイはイリアスに目配せして、別室からその人物を連れてこさせた。執務室にやってきたのは、漆黒の艶髪にエメラルドグリーンの瞳の青年だった。かつての私と同じ色彩を持つのは、あの夜会から会うこともなかった兄だった。