皇城の皇帝の執務室には婚姻宣誓した時と同じ顔ぶれが揃っていた。
ブレイリー団長の魔道具で移動して来たのだが、この状況とイリアスの笑顔に背筋を冷たい汗が伝っていく。
どうしよう、なんか嫌な予感しかしない。
「おい、なぜ俺とセシルが皇城に呼ばれるんだ?」
「なぜと申されましても、皇帝陛下はあなた様ではないですか」
「それはイリアスに帝位の譲渡をしただろう」
「いえ、まだ譲渡はされておりません」
「は? どういうことだ?」
どうやら、レイは皇帝を辞めたと思っていたけれど、実際はまだ皇帝のままだったらしい。それなら、レイと離縁していなかった私は?
「どういうこともなにも、私は帝位譲渡の書類にサインしておりませんので。このディカルト帝国の皇帝はレイヴァン様ですし、皇后はセシル様です」
やっぱりー! きっとレイも敏腕宰相のイリアスに、うまいこと動かされたのだろう。
「イリアス……! 今すぐその書類にサインしろっ!」
「お断りいたします」
「なぜだ!?」
「このディカルト帝国を発展させ、民が笑顔で暮らせる国にできるのは、レイヴァン皇帝陛下とセシル皇后しかおられないからです」
イリアスの言葉にレイが言葉に詰まる。
「これだけ民のことを想い、どんな苦境にも諦めず最善を尽くされるお姿、さらには帝国最強の騎士として実力も申し分ないお方など他におりません」



