婚約者を奪われ追放された魔女は皇帝の溺愛演技に翻弄されてます!


     * * *

 久しぶりにゆっくりと眠れた。

 昨夜はレイが薬屋にやって来て、気持ちが通じ合い、やっと私とレイは結ばれたのだ。慣れ親しんだ温もりに、私の意識はあっという間に闇の中に落ちていった。

 本当に幸せで、やっぱり夢だったんじゃないかと不安になる。でもすぐに背中に感じる熱が、耳にかかる吐息が現実だったと知らせてくれた。

 そっと起き上がってみると、穏やかな寝顔のレイが寝息を立てている。きっとレイも皇帝としての仕事が忙しかったのだろう。目の下にうっすらとクマができていた。

 朝食の準備をしようとベッドから降りようとして、腕を掴まれてバランスを崩した。

「わっ!」

 そのまま腕を強く引かれて、レイの胸にダイブするように倒れてしまう。結構な衝撃だと思ったのに、レイの逞しい胸板はびくともせずに私を受け止めてくれた。

 さらにガッチリと腰をホールドされて起き上がれない。

「セシル、どこへ行く?」

 頭の上から不機嫌そうな声が降ってきた。

「どこって、朝食を用意しようとしたのよ。お腹空いてない?」

 少しだけ上半身を起こせば、まっすぐに見つめてくる碧眼と視線が合う。朝からなんて神々しいご尊顔を披露しているのだ、私の夫は。心臓がかつてないほど激しく鼓動している。