ブレイリーは多少の政治は理解できるが、この宰相のように知略を張り巡らし人を駒のように動かすのは向いていないと思っている。適材適所があるし、自分はどちらかというと背中で語るタイプだ。
頭脳労働はイリアスに任せて、ブレイリーは自分の仕事をしようと気持ちを切り替えた。
「そういえば、セシル様はいつ戻ってこられるんだ? セシル様の警護シフトの組み直しが必要なんだ。旧派の貴族が抜けたから、人員も補充したい」
「ああ、そうですね。それならマックイーン侯爵に声をかけてください。彼自身も領地の魔物討伐で腕を慣らしてましたし、前回の聖女の不正検査に協力してくれた功績もあります」
確かにマックイーン侯爵ならセシル様の警護を安心して任せられる。仕事ぶりを見ても有能なのは間違いない。
「その際に取りまとめた貴族たちの伝も使えるでしょう。不足分は第二騎士団や第三騎士団から異動で賄ってください」
それならなんとかなりそうだと、ブレイリーは納得した。
「なにより彼なら自らの命をかけて、セシル様の盾にもなるでしょう」
「ああ、間違いないな。でもな、それよりも面白いものが見れそうじゃないか?」
「面白いものですか?」
「マックイーン侯爵は、セシル様の実の兄上だろ? 陛下から見たら義理の兄だから、今回みたいな無茶もしなくなるんじゃないか?」
そもそも単身で敵地に乗り込むこと自体あり得ない。いくら心から愛するお妃様のためでも、皇族の近衛騎士である第一騎士団を待たずに、自ら攫われた妻を探しに行かないものだ。
敬愛する主人のためだからどんな無茶でもするが、できるなら大人しくしていてほしい。心臓がいくつあっても足りなくなる。
「なるほど、そういうアプローチも有効そうですね」
「陛下にはそろそろご自身を大切にしてほしいんだ。イリアス、頼んだぞ」
「ええ、もちろんです。使えるものはすべて使いましょう」
そう言って冷たい微笑みを浮かべるイリアスは、敵したくない男ナンバーワンだとブレイリーは強く思った。



