* * *
その頃、皇城にあるレイの執務室には、宰相のイリアスと、第一騎士団長のブレイリーが残務処理のため顔を合わせていた。
ひと通りの打ち合わせが終わり、ブレイリーがイリアスに問いかける。
「なあ、イリアス。陛下は本当に退位されたのか?」
「そんなわけないでしょう。確かに帝位譲渡の書類は用意もしましたし、陛下はサインもされたけど、私がそれを認めると思いますか?」
イリアスは冷酷無慈悲な宰相だった。
頭は切れるし忠誠心も厚い、決断力もあり実行力も伴っている。だが、国のためにならないことは、絶対にことを進めない。
「はははっ、だよなあ。お前はトップって柄じゃないし、陛下じゃなきゃ俺たちをまとめられないだろうしな」
「そうですよ。そんなわかりきったことを陛下は理解されてないんです」
「まあ、陛下らしいと言えば、陛下らしいな」
イリアスは午後苦のような環境から救い出してくれたレイヴァンに、忠誠を誓っている。そのレイヴァンを助けたセシルもまた別格だ。
私情を抜きにしても、帝国の皇帝を務められる器がある人間など限られてくる。
この帝国に必要なのは、レイヴァンとセシルだ。あのふたり以外に適任者はいない。
「それはそうなんですが……もう少し自覚を持っていただくべきか。セシル様にうまく動いていただければ、いい方向に持っていけるか——」
イリアスは思考を巡らせた。



