婚約者を奪われ追放された魔女は皇帝の溺愛演技に翻弄されてます!


 青年は私の魔力の圧にゴクリと息を呑む。

「もう対価はもらったわ。魔女は借りを作るのが嫌いなのよ」

 雪の結晶をした闇魔法が吹雪のように牢屋の中を乱れ舞い、鉄格子に向かって飛んでいく。次の瞬間には、大きな音を立てて、細切れになった鉄格子が床に散らばった。

「ええっ! 魔女様、これでは——」

「閉じ込められた鬱憤(うっぷん)を晴らしただけよ。スッキリしたわね」

 これで誰かが牢屋の鍵を開けたなんて思わないだろう。ついでに魔道具も切り刻んでおいたから、これも破壊されただけだと解釈してくれるだろう。

 私の意図を理解したのか、青年はくしゃりと顔を歪めて笑った。

「さあ、貴方は邪魔よ。どこへでも行きなさい。ついでに屋敷の人たちも避難させて。思いっきり暴れるから」
「魔女様……これでは恩返しになりません」
「対価はもらったって言ったでしょ。ああ、行くあてがなかったら、あの店で雑用として雇ってあげるわ。じゃあね」

 来るかどうかはわからないけど、もしここをクビになっても困らないようにしてあげたかった。こう見えて魔女は義理堅いのだ。あの兄弟が地下牢から出ていくのを見届けた。

「さあ、ここから反撃よ。……もう絶対に許さないわ」