婚約者を奪われ追放された魔女は皇帝の溺愛演技に翻弄されてます!


 声の方へ視線を向けると、やってきたのは執事服の青年だった。腹部に傷を負って治療した青年だ。

「なんて無茶なことを……!」

 青年はポケットから鍵束を出して牢屋の鉄格子を開けてくれた。

「助けに来るのが遅くなって申し訳ありません。兄から聞いて、ずっと機会をうかがっていたんです。なんとか魔道具の鍵を手に入れたので、お助けいたします」

 青年はニコッと笑って、あっさりと魔封じの腕輪と首輪を外してくれた。

「ちょっと! そんなことをしたら貴方はどうなるの? ただでは済まないでしょう!」
「大丈夫です、兄が牢屋の警護をしている兵士たちを一時的に遠ざけたので心配ありません。さあ、早くここから出ましょう。兵士たちが戻ってくる前に」
「どうしてここまで……」

 私を助けるために、きっと危険を承知でここまできてくれたのだ。私がこのまま逃げ出せば、この兄弟は間違いなく罰せられてしまう。

「命を助けていただいたご恩をお返ししたかったのです」

 ぼやけてくる視界を瞬きでやり過ごし、自由になった魔力を解放した。