連れてこられたのは、あのフューゲルス公爵家だった。
案の定というべきか、義妹が高らかに笑いながら私を見下してきた。元婚約者の顔を見てもなにも感じるものはなかった。びっくりするくらいどうでもよかった。
問題は足元に転がっている香炉と、あのふたりがレイを皇帝から引きずり下ろすために画策していることだ。
どうしよう、早く義妹たちを止めないと。呪いの香炉を作らなければフィオナが殺されて、クーデターが起きたらレイが殺される。
私がヘマをしたから、ふたりの命が危険に晒されてしまった——。
レイが殺される。
あのレイが? いつも意地悪な笑顔で私をからかって、海の底のようなコバルトブルーの瞳をまっすぐに向けてくるレイに……もう会えなくなる?
もうあの手に、あの温もりに触れてもらえなくなる?
——そんなの、嫌だ。
だってレイが頑張っているから、街の様子も活気づいていた。多くは語らないけど、民のために心を砕いていたのを知っている。
なによりもいつも疲れてるのに執務を早く切り上げて、私との時間を作ってくれていた。
例え魔女でも偏見なく見つめてくれた。
そんなレイがいなくなるのなんて、嫌だ。
私の心に火が灯る。



