婚約者を奪われ追放された魔女は皇帝の溺愛演技に翻弄されてます!


 わたくしがわざわざ足を運んだ地下牢にいたのは、忌々しい姉のセシルだったのだ。
 薄汚れた地下牢の中で、肩までの黒髪はほこりに塗れ平民が着るような質素なワンピース姿でベッドに腰かけていた。

「公爵様の指示通り、首には声を出すことができなくなる古代魔道具を、手首には魔封じの古代魔道具を装着しております」
「お前は……セシルか!」
「ふふふ……あはは! お義姉様、こんなところで会うなんて、どんな奇跡なのかしら?」

 わたくしは久しぶりに心から笑顔を浮かべて、セシルの入っている牢屋に向けて声をかけた。黒髪の見窄らしい女は、昏い瞳でわたくしを見つめている。

 そう、この瞳だ。こんな風に絶望した瞳で生きるのが、この女には似合っている。

 すべてを持っていたこの女が羨ましかった。きれいな屋敷に住んで、大勢の使用人に囲まれて、婚約者まで素敵で。そしてわたくしに施す余裕があるのが妬ましかった。

 だからこの女のなにもかも奪ってやりたかった。