婚約者を奪われ追放された魔女は皇帝の溺愛演技に翻弄されてます!


 やがて少し開けたスペースに出ると、ベンチが複数置かれていて休憩できるようになっていた。

「ここでひと休みしよう」

 レイが腰を下ろしたベンチに私もそっと座る。
 そよそよと頬を撫でていく風が心地いい。

「少し落ち着いたか?」
「うん、ありがとう。もう大丈夫。せっかく買い物に来たのにごめんね」
「それはかまわない。もう大事な用件は済んでる」

 少し強めの風がレイの髪を弄んでいる。深い海のような碧眼は、いつもと変わらず仮面の奥からこちらを覗いていた。

 言葉はぶっきらぼうなのに態度は優しくて。
 いつも私をからかうのに、その瞳はまっすぐに私を見つめてくる。
 触れ合うと熱が伝染するみたいに広がって、途端に落ち着かなくなった。

 ムカつくこともあったけど、それ以上に私の胸の中を占めるのは、切なくて甘くて熱い気持ちだ。

 繋いだ手からレイの温度を感じる。

 契約だから、優しくしてくれてるのに。
 ひと月後には別れが待っているのに。
 これが最初で最後のデートなのに。

 もう誰も愛さないって決めたのに。


 それなのに私は、こんなにもレイが好きだ——