婚約者を奪われ追放された魔女は皇帝の溺愛演技に翻弄されてます!


 レイのゴツゴツとした指が、決して離さないと言ってるみたいに私の指に絡んでいる。
 それだけでも落ち着かないのに、気遣う様子で優しくエスコートしてくれた。仮面の奥の深い海の底のような青い瞳は、穏やかに私を見つめる。

 もういいから。これ以上、優しくしないでほしい。

「…………?」

 ねえ、契約なんだよね?

 そうレイの背中に問いかけるけど、魔法契約の制限により私の声は届かない。

「ここだ。歩けるか?」
「うん、大丈夫」

 連れてこられたのは植物園だ。広大な敷地に帝国中の植物がすべて集められた商業施設だが、人影はまばらだ。

「ここなら空気もいいし、あまり混み合ってない」

 広大の敷地の中には温室や薬草園、それから遊歩道や公園まである。

 私はレイに手を引かれたまま、遊歩道へと進んだ。小鳥のさえずる声を聞きながら、清涼感のある空気を吸い込んでゆっくりと木々の間を歩いた。

 言葉はなくても手のひらから伝わる温もりでだけで、心が凪いでいく。ずっとこの時間が続けばいいのにと思った。