婚約者を奪われ追放された魔女は皇帝の溺愛演技に翻弄されてます!


 二時間ほどで内装や家具まですべて手配してくれたので、引っ越ししたらすぐに生活が始められそうだ。至れり尽くせりで、そこは感謝しないといけない。商会を出てきちんとレイに向き直った。

「レイ、ありがとう。これですぐに生活が始められそうだわ」
「ああ、セシルはひとり暮らしの経験もあるから問題ないだろう。俺が——しまった、ひとつ頼み忘れたことがある。ここで待っててくれるか?」
「わかったわ」

 商会に戻るレイを見送って、私は視線を通りへ向けた。目につくのは仲睦まじそうにしているカップルだ。

 誰も彼も幸せそうに笑みを浮かべているし、相手を見つめる瞳には恋情が宿っている。他にも幸せそうに笑う家族づれや、三人の女の子がカフェで楽しそうにおしゃべりしていた。

 どれもこれも私には縁のないものだ。深いため息がこぼれる。

「……はあ」
「セシル、待たせた。どうした? 具合が悪いのか?」
「あっ、なんでもない。久しぶりに人が多いところに来たから、身体がついてきてないみたい」
「そうか……場所を変えよう。いいところがある」

 そっと私の手をとって、レイは歩き出した。