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玄関の方からコツンと小さく響いた音に、ああ、行ったんだと気が付いた。
ふわりと柔らかなものが当たった気がする額を軽く確かめながら部屋を見回せば、端に置かれているはずなのに目に入ってくる彼女の荷物。……忘れられるはずがないんだ。きっとこんなふうに、これからも僕の心の隅に彼女は残り続けるんだ。
ふと横を見るととなりはもぬけの殻になっていて、かすかに残るぬくもりが、ついさっきまでここに彼女がいたことを教えてくれる。
追いかければきっと追いつくことができるのに、そうする勇気はなかった。重い足取りで玄関へ向かい、郵便受けからカギを拾い上げ、そのままポケットにしまった。いつか彼女が戻ってくるような、そんな気がして。
そんな日が来るわけないと頭でわかっていても、きっと僕はここで彼女を待つのだと思う。
待っていると言ってあげられなかった後悔がしみになって、僕の一部になってしまうその日まで——。
END



