とんでもない女に長年片想いし続けたという、自分の馬鹿さ加減にうんざりしつつ、まだ心の何処かで、中原さんは“地味系ビッチ”なんかであるはずがないという、相反する想いがせめぎ合っていた。

それでも、いつかはこんなこと、忘れる日が来るのだろう…。

さっさと帰って、シャワーを浴びたらビールでも飲むことにしようか。

そう思いつつ、最寄り駅の階段を上ろうとした時、

「あっ…!」

すぐ目の前で、小さな悲鳴とともに、女性がハイヒールのせいで階段を踏み外し、後ろ向きに倒れてきて、反射的にその人を受け止めた。

彼女がまだ、4、5段しか上っていなかったのが救いだったのだろう。

僕は、なよっぽく見えても、力は割とあるほうだ。

それでも、もし、かなり高いところから落ちたなら、流石に受け止められないどころか、こちらが下敷きになっていたかもしれない。

「大丈夫ですか?」

そう尋ねると、

「は…はい。ありがとうございます!あぁ、怖かった…」