S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす


「花詠が従業員ではない誰かと言い合っていたって聞いたから、てっきりお客様とトラブルがあったかと。ひぐれ屋に……花詠に、なんの用かしら?」


 強張った表情でエツに問いかける母からは、少しの不信感を抱いているのが伝わってくる。

 母は、父ほど石動家を敵対視しているわけではないが、関わりを持とうとはしない。私たちが親密にしていたと父に告げ口されたらまた引き離されそうだし、ここはケンカしていた風に装っておこう。


「な、なんか、久々に日本に帰ってきたらここが懐かしくなって気まぐれで来たみたい! だから、石動グループがえげつないキャンペーンを始めたからこっちは大変なのよって文句言ってたの!」
「俺に文句を言うのは間違っている。俺は石動家の人間ではあっても、石動グループの社員じゃない」


 わざとらしくなってしまう私に対し、さっきまでの甘い空気をあっさりと消し、冷ややかな態度になっている彼には感服する。そしてやっぱり、演技だとわかっていてもちょっと腹立つ。

 俳優にもなれそうなエツはやや伏し目がちになり、「でも……そうか。なるほどね」と呟いた。なにか考えているような素振りを見せた後、母に向き直って口を開く。