このソメイヨシノとは比較にならないほど頬が染まっているのを自覚していると、彼の指からはらりと花びらが舞う。
「その様子だと、まだ結婚してないみたいだな」
その様子って、私からは独り身のオーラかなにか出ているのか?とツッコみたくなるも、開き直って胸を張る。
「おかげさまで、自由を謳歌してますよ」
「ならよかった」
意味深な返しに、私は小首をかしげた。その時、旅館の玄関のほうから「花詠!」と呼ぶ声が聞こえてきてギクリとする。
こちらに小股で駆け寄ってくるのは母だ。結局見つかってしまい、どんな言い訳をしようかと瞬時に脳をフル回転させる。
内心あたふたする私と、やっぱり動じないエツの元へ来た母は、丁寧に頭を下げた。どうやら彼をお客様だと思っているらしい。
「申し訳ありません、お客様! うちの若女将が──」
顔を上げてよくよくエツの顔を見た彼女は、はっとした表情に変わる。
「あ、あなた、悦斗くん……?」
「お久しぶりです。開館前に来てしまってすみません」
頭を下げて挨拶と謝罪をする彼を、母は驚きと戸惑いを露わにして見つめていた。
そしてひとつ息を吐き、私に視線を向けて落ち着きを取り戻した口調で言う。



