「俺たちの仲が悪いってのは有名なんだから、急にお前に甘くなってたら不自然だろ。フランスで会ったことは秘密なんだし」
「あ……」
そういえば、暮泉家と石動家の不仲については、この旅館でも周知の事実になっているんだった。私たちが親しげに接しているところを見られたら、不思議がって噂になるかもしれない。
面倒なことになりそうだから、あえて仲よくなさそうに演じたってこと?
ようやくエツの意図がわかった気がして眉を上げると、彼の顔にちょっぴりいたずらっぽい笑みが生まれる。
「ほら、今ならしてもいいぞ。フランス流の挨拶」
自分の頬を人差し指でトントンと叩く彼。空港でのキスを思い出して、かあっと顔が熱くなる。
「日本だからしません!」とそっぽを向く私に、彼はクスクスと笑った。
……ああ、ストラスブールで会った時と同じエツだ。本気で冷たくされたんじゃなくてよかった。
心底ほっとして、自然に笑みがこぼれる。
「元気そうでよかった。これからはしばらくこっちにいるの?」
「たぶん。最低でも五年は」
「そっかぁ。その間ならいつでも会え──」
つい本音が出そうになり、咄嗟に口をつぐんだ。やばいやばい、会えるのが嬉しいと思ってるのがバレてしまう。



