とはいえ館内ではいつ両親に出くわすかわからないので、「外しかないから出てて!」とビシッと玄関の向こうを指差した。
彼はあっさりこちらに背を向けて歩き出す。私は花瓶を置いてある棚に片手をつき、反省猿のような格好で大きな落胆のため息を吐き出した。
自分の存在を消すように縮こまって静観していた棗ちゃんは、おずおずと話しかけてくる。
「か、花詠さん、もしかしてあの人が……」
「元許嫁の外交官」
皮肉たっぷりに言い、のっそりと姿勢を戻す。
〝フランスで親密になったんじゃなかったんですか?〟と言いたげな彼女に「後でいろいろ愚痴らせて」と告げ、足取り重く私も外へ向かった。
人目につかない場所はそれほど多くない。建物の壁に沿うようにして少し歩き、中庭に出る前に足を止めて彼と向き合う。
また犬猿の仲だった頃のように戻ってしまったのかと、悔しさや切なさを抱きつつ、こちらもそっけない態度で尋ねる。
「いつ帰ってきたの?」
「昨日」
「そう。この一年弱で砂漠並みにドライになっちゃったんだね」
「なってない。上辺だけだ」
嫌味を込めて言ったものの、『上辺だけ』という言葉が引っかかって訝しげにエツを見上げる。



