S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす


 私はゾッとしつつも、耐えろ、耐えるんだ!と漫画かなにかのように自分に言い聞かせる。次の瞬間、後方から「お客さん」という冷ややかな声が聞こえてはっとした。

 肩からすっと手が離れていくのと同時に振り向くと、すぐそばにエツがいて私は目を丸くした。その手には社長の手首が掴まれていて、彼が離してくれたのだとわかる。


「なんだい、君は?」
「すみませんが、この子にも仕事がありますので。ここはキャバクラじゃありませんよ」


 不機嫌さを露わにする社長に、エツは毅然とそう言い放ち、今度は彼が私の手を引いて歩き出す。強い力で強引に連れられていく私は、唖然としている社長に「す、すみません!」としか言えなかった。

 彼はずんずんと廊下を進み、角を曲がる。人気がないそこで、私はぐっと足を止めた。


「ちょっ……エツ!」


 振り返った彼も、とても不快そうな顔をしている。

 おそらく彼もお手洗いに行った時に私を見つけ、助っ人に入ってくれたのだろう。その気持ちはとてもありがたいけれど、今後を考えると素直によかったとは言えない。

 離された手を自分で握り、眉を下げてエツを見上げる。