S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす


 たったこれだけのやり取りでも胸が弾んで、また少しこの格好をしている自分が好きになれた。

 事務をしながら様々な対応をしている父と、食事の提供をしている母にバレたら面倒なので、私もそそくさと仕事に戻る。今日は上客である金融会社の島田社長も来る予定になっていたため、少々気を張らなければならなかった。

 午後八時を過ぎ、二階にある大広間からは適度に賑わっている声が聞こえてくる。島田社長はそこから離れた少人数用の静かな一室で、役職者らしき数人と宴会を楽しんでいた。

 一組のお客様を部屋に案内した後、館内を移動している最中に、部屋を出てきたひとりの男性と出くわした。恰幅のいい五十代後半のその男性が島田社長だ。いい感じにお酒が回っているらしく、顔が赤らんでいる。

 おそらくお手洗いにでも行こうとしたのだろう彼は、「島田社長、ご来館いただきありがとうございます」とお辞儀をする私を見て、ぱっと顔を輝かせる。


「君、もしかして女将の娘さん?」
「はい。花詠と申します」
「可愛いねぇ。後でちょっと一杯付き合ってよ」


 社長は指でお猪口を傾ける仕草をしてそう誘ってきた。母もよくお酒をすすめられて嗜む時もあるようだが、未成年の私は当然承諾できないので笑顔で丁重にお断りする。