ついさっき、麻薬の運び人にされそうになって……なんて話は口が裂けても言えないので、『お母さんが思ってるほど治安は悪くないよ。でも十分気をつけるから』と伝えておいた。
電話の最後に『旅館のことは気にしなくていいから、無事に帰ってきなさい』と私の身を一番に気遣ってくれるのは、母の好きなところのひとつだ。
家にも連絡できたので、約束通り五時少し前に領事館の前にやってきた。ガラス扉から見える入り口にはインターフォンがあり、ここから窓口となっている九階へ行くのだろう。
しかし私は領事館に用があるわけではないので、この辺りをぶらぶらして待つことにする。
先ほどまでのプティット・フランスののどかな雰囲気とは違い、ショッピングセンターには都会感が漂う。近くにバスターミナルがあるし、日本の駅ビルに似ているかもしれない。
ああ……なんか緊張してきたな。これから本当にエツの家に行くんだよね? 決して彼が適当な約束をしたとは思っていないけれど、あまりにも現実味がなくて。
彼はこれまで何度も私を助けてくれた。今回も同じで、ただ不測の事態で困っているから泊めてくれるというだけだし、私に対して下心があるなんて微塵も思っていない。



