──季節は巡り巡って、エツと結婚して約五年の月日が経った。

 ストラスブールでの災害の後、エツが日本に戻ってきてすぐ籍を入れた私たち。結婚式はそれから五カ月後の秋終盤に行った。

 この頃には両親同士嫌味を言うことも少なくなり、経営の改革も順調に始まっていたので、式はとても和やかだった。どちらの父もうるうるしていたのには笑ってしまったけれど。

 私は今も彼のマンションで一緒に暮らしながら、ひぐれ屋に通う生活を続けている。宿泊客数は右肩上がりになっていて、半年先まで予約が一杯の状態なのでありがたい。

 しかし、私が若女将として働くのももうすぐ一旦終わりになる。ついにエツの在外公館勤務が決まったからだ。

 今度配属になったのは、在シアトル日本国領事館。フライト時間もヨーロッパほど長くないし、英語圏でよかった!と、私は内心ほっとしている。

 日本を経つ日を一週間後に控えた九月のある日、私たちの送別会を開いてくれるということで、仲のいい数人がひぐれ屋の広間に集まっている。

 皆を前に挨拶するのは、今日の会を計画してくれた祥だ。大学も卒業して立派な若旦那となった彼は、いつもの着物姿で頭を下げる。